事例研究(経営支援)

事例「在庫が増え続ける状況を改善したい」(仕入の適正化)

過去から続く「在庫の増加」を止める為には、「商品の特性」を踏まえた対策が必要であった。仕入削減(発注削減)を急いだ経営者が失敗した理由と、そこから辿り着いた「仕入の適正化」の具体策とは。

この記事では、経営支援の事例を取り上げ、経営や事業運営に関して問題を抱えた状態をどのように変化させる事が可能なのかについて紹介します。事業に携わる方で、問題が解決した先が見えずに悩まれている方に参考にして頂ければ幸いです。

支援前の状態

  • 過去十年以上、在庫が増え続けている。これは、毎年の商売で売れ残りが発生し続けた結果である。
  • 新しい経営者は、この状況は問題であると考えた。そして、過大な仕入(発注)を減らすように厳命した。
  • しかし、半年経っても仕入は殆ど減らず、商品が売れ残る量も変化しなかった。それどころか、以前よりも利益率は下がってしまった。
  • この結果について、経営者は、自分の出した指示によって現場が混乱してしまったせいであると考えている。
  • 事業は、雑貨の企画販売。

支援内容と支援後の状態

この会社の経営者は、半年前までは違う業界の会社を経営されていました。そして、その会社では実績を残されており、この会社の業績改善にも強い意欲を示されていました。

しかし、この会社に来て真っ先に取り組んだ「仕入削減」に関する指示が守られず、在庫増(商品の売れ残り)が止まらなかった事にはショックを受けておられました。また、利益率まで下がってしまった事に混乱されていました。

これらの結果は、「自分の指示がうまく社員に伝わらず、現場を混乱させてしまった為である」と分析されていました。そして、社風が違う新しい会社(今回の会社)の経営に自信を無くしておられました。

この為、経営者の指示が守られなかった理由についての調査が行われる事になりました。

同時に、この会社が扱う「商品の特性」についても、詳しく分析する事にしました。仕入削減に取り組む上では、この点についての理解が不可欠である為です。

調査を行って、まず解った事は、「この会社の仕入削減は一筋縄ではいかない」という事でした。

この会社が扱っている商品は幅広く、対策を立てる上で理解しておくべき「商品の特性」も様々だったのです。

「商品の特性」とは、その商品を商売で扱う際に気を付けるべき「特徴」の事です。例えば、「発表後には価値が急激に下がる」「配送には高い費用が必要となる」「人気が特定の色に集中しやすい」など様々なものが特性となり得ます。

そして、今回のケースにおいて、特に重要と考えられた「商品の特性」は、「発注精度」に関するものでした。

ここでの「発注精度」とは、「販売数量を正しく予測し、それに見合った量を発注出来る度合い」の事です。この精度が高ければ、「売れ残り」も「欠品(売り逃し)」も少なくて済みます。

この特性の違いによって、この会社が扱っている商品は「発注精度を高める事が可能な商品グループ」と「発注精度を高める事が困難な商品グループ」という大きな2つのグループに分ける事が出来ました。

前者は、企画の時点で、「どの程度の売上が期待出来るのか」という事について、ある程度は予測が可能でした。この為、多少の品切れを覚悟するのであれば、ほぼ在庫を残さない仕入に抑える事は可能でした。

しかし、後者は、数分の一の確立で大ヒットが出るような商品ばかりでした。そして、やっかいな事に、企画時点では商品の売れ行き予測が難しく、実際に仕入して販売してみないと結果が解りませんでした。

両者の差は大きく、この2つの商品グループを一括りにして検討を行う事には無理があるように思われました。

しかし、この会社の業務においては、この差は意識されていませんでした。一人の担当者が幅広い商品を担当しており、こうした「商品の特性の違い」を気にせずに企画・発注が行われていたのです。

ここまでの調査で、「この2つのグループの差異を無視した仕入削減に関する指示が、現場を混乱させた可能性が高い」という推測をする事は出来ました。

この推測が正しい事を確認する為、経営者の仕入削減に関する指示が出た後の「商品の動き」を、2つのグループ毎に分析する事にしました。

この分析によると、まず、全商品に対する初期の発注量は大幅に絞り込まれていました。すなわち、現場は、新経営者の指示を守ろうとはしていたのです。

そして、その後も、「発注精度を高める事が可能な商品グループ」に関しては、以前よりも売上こそ多少落ちたものの(売り逃しが発生した為)、売れ残りの発生を抑える事に成功していました。

しかし、「発注精度を高める事が困難な商品グループ」が問題でした。発注を絞り込んだ結果、このグループに関する売上は急減していたのです。発注を減らす為に企画の数を絞り込んだ為、ヒット件数が大幅に減少していた為でした。そして、ヒットした企画についても、発注量を抑えていた為に売り逃しが大幅に発生してしまっていました。

これで終われば、このグループについては、売上ダウンと在庫アップという結果になります。しかし、実際には、この売上ダウンを受け、担当者は売上の挽回を目指しました。その結果、精度の低い企画の商品発注が大量に追加で行われていました。そして、それらは利益率が低かったのです。

これらの様々な要素が組み合わさり、経営者が悩まれていた結果(在庫は減らず、利益率は悪化)は生み出されていたのです。

ようやく、この会社で発生していた事は明確になりました。

そして、ここまでの調査結果を基に分析した結果、「発注精度を高める事が困難な商品グループ」については、「仕入を抑える事は、現時点ではメリットよりもデメリットの方が大きい」と判断されました。

逆に、「発注精度を高める事が可能な商品グループ」については、「仕入を抑える事によるメリットは現状でもある」と判断されました。

これらの結論を確認する為に、商品グループ毎に数字を管理出来る仕組みを導入し、その上で、「発注精度を高める事が可能な商品グループ」のみ仕入削減を継続し、「発注精度を高める事が困難な商品グループ」については仕入削減を止めて様子を見る事にしました。

数ヶ月が経つと、期待通りの結果が確認出来ました。

全体の利益率は元に戻り、在庫増のペースも以前よりは落ちました。「発注精度を高める事が可能な商品グループ」についてのみ、売れ残りを減らす事に成功したのです。

今後、この会社は、残った「発注精度を高める事が困難な商品グループ」についても対策を講じる事によって、仕入の適正化(在庫増という問題の解決)を完成させる事になります。

当社から見た解説

在庫を扱う会社の経営者の多くは、「商品の売れ残りを減少させたい」「在庫が適切な量以上に増えないようにしたい」と望みます。そして、それは経営者が取り組むべき重大なテーマです。

しかし、事業によって、「商品の特性」は様々です。この為、「在庫が残る事になった理由(過程)」も様々であり、「在庫の発生を防ぐ為の対策」も、それぞれの事情に応じたものを用意する必要があります。

その為には、特性ごとに商品をグループに分け、そのグループ毎に対策の検討を行う事が求められます。

しかし、多くの会社では、自社が扱う商品について、「適切にグループ分けをして検討する」という事が出来ずにいます。

今回の会社のケースでも、商品の管理(数字の集計・分析)は、企画・発注の担当者の単位でしか行われておらず、「商品の特性によって分けられたグループ単位」では行われていませんでした。

結果、「商品の特性によって対策を変えるべきである」という事に気付く事は出来ていませんでした。

確かに、適切なグループ分けの為には、商品についての深い理解をする事が必要になります。また、多くの会社では、データを分析する為の仕組み作りから始めなければならず、難易度は低くありません。

この為、この問題に対して十分な取り組みが出来ていない会社は少なくないようです。

しかし、適切にグループ分けをして分析を行う事が出来れば、デメリットを最小限に抑えながら、在庫に関する対策を講じていく事が可能となります。

実際の対策においては、今回のケースで扱ったような特性によるグループ分けの他にも、様々な特性によって、自社が扱う商品を区分・集計する事が求められます。作業を行う際には、こうした分析や仕組みの構築に長けた人材を加えて作業を行うようにして下さい。

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