事例「過大な発注が日常化した状況を改善したい」
(組織風土の変革)

発注過多によって在庫が残る状況を抜本的に改善したい。多くの会社が必要性を感じている「組織風土の変革」を実現させ、この会社が難題を解決する事が出来た理由とは。

この記事では、経営支援の事例を取り上げ、経営や事業運営に関して問題を抱えた状態をどのように変化させる事が可能なのかについて紹介します。事業に携わる方で、問題が解決した先が見えずに悩まれている方に参考にして頂ければ幸いです。

支援前の状態

  • シーズン期間中に売り切れない商品の割合が、年々大きくなってきている。明らかに、自社が販売出来る能力(量)を超えた発注が行われている。
  • 結果、倉庫には在庫が溜まり続けている。また、それらを管理したり販売したりする為の負担も大きくなっている。しかし、社内に危機感は薄い。
  • 発注を抑える為の努力を経営者は行っている。しかし、状態が改善されぬまま現在に至る。
  • 事業内容は服飾品の製造販売。

支援内容と支援後の状態

この会社の経営者は、過大な発注を抑える為に様々な施策を講じていました。あまりに売れ残りが減らない現状に業を煮やし、少し前には、経営者自身の確認がないと発注が出来ない仕組みまで導入されていました。

しかし、結果は出ていませんでした。「各商品に関する販売見込み量」と「売上予算」を勘案しながら発注を許可していると、結局、シーズン期間(適正な価格で販売出来る期間)終了後には、売れ残った在庫の山が築かれていました。

分析を行う事によって、まず解った事は、「この会社の各商品の販売量を予想する(見込む)能力は低い」という事でした。しかし、それよりも大きな問題は、現場で「発注量を適正にしなければならないと真剣に考えている社員がいない」という事でした。

管理職も過大な発注を抑えるように指示はしていましたが、それは表面上だけでした。社員の間では、売れ残りが発生した理由については、「景気や天候が原因である(自分達のせいではない)」という事にする暗黙の了解が出来上がっていました。

勿論、こうした社内の状況には背景(理由)がありました。

この会社では、昔から、「販売部(営業)」と「商品部(企画・仕入)」に分かれて業務を行っていました。そして、販売部が関心を持っているのは、「売上」のみでした。逆に、商品部の関心は「商品の企画」のみでした。

社員の評価も、販売部は「売上」によって決まり、商品部は完成させた「企画の数」と「仕入の量」によって決まる仕組みでした。「各商品が売れ残った量」については、原因がどちらの部にあるのか明確には出来ない為、評価の対象からは外されていました。

このような分業の結果、発注量を抑えるように真剣に取り組む社員が、この会社からはいなくなってしまっていたのです。

そして、販売部は、売上ノルマを達成する為に、「少しでも多くの商品の種類を用意しておきたい」と考えていました。また、ヒット商品の売り逃しを避ける為に、「数量も多く用意しておきたい」と考えており、過大な販売見込みを作成する事が恒例となっていました。

商品部も、その販売部からの要望と販売見込みに応じて、商品企画を絞り込まず、また、各商品の発注量についても、多めに決定する事が日常化していました。

本来は、両者で協力して発注量を抑えるべく努力すべきです。しかし、自分達にヒットする商品を見極める能力が欠けている事もあり、より楽な、「売れるかもしれないものを多めに作っておく事で、売上ノルマだけは達成する」という方針の為に2つの部で協力するという、悪い意味での協力関係が出来上がってしまっていたのです。

ただし、両者とも単に怠けていた訳ではありません。会社が売上を重視していた事は確かであり、販売部がそれを達成しようと努力していた事も確かです。そして、商品部も、それに応えようと努力した結果ではありました。

原因は把握する事が出来ました。しかし、この「発注過多」を改善する事は、かなりの難題であり、経営者が求めるような短期間での改善を行う為には、劇薬が必要となると考えられました。

この為、経営者には、この段階で、今後の方針について決断を求めました。もし、対策を断行するのであれば、「しばらくの間、社内が混乱し、また、売上も下落する事を覚悟して頂く必要がある」という内容です。

そして、悩まれた末ではありますが、経営者は現状を変革する事を決断されました。

決断を受け、この会社では発注の責任の所在を大幅に変更しました。具体的には、発注に関する全ての決定(許可)を販売部が行う事にしたのです。発注量は販売部が決定し、売れ残った場合には、その全責任を販売部が負う事にしました。

社内は混乱し、解りやすく、両者の関係は悪化しました。販売部は、確実に自分達が売れる量まで発注量を抑え込みました。商品部にとっては、自分達がせっかく企画した商品であっても、発注が全く行われないという事態すら発生しました。

しかし、この混乱がしばらく続いた後、両者の関係は修復に向かいます。

販売部としては、「売るもの」が無ければ、自分達の評価に繋がる「売上」が出来ません。単に、控えめの発注ばかりしていたのでは、自分達の評価が維持出来なかったのです。この為、現状よりも何とか発注数量を増やしたいと考えるようになりました。

結果、販売部は、今まで以上に「確実に売れるものは何か」という事を日頃から考えるようになり、商品部に対しては、健全な意味で強い要求を行うようになりました。そして、商品部も、それに応えようと努力するようになりました。

両者で喧嘩をしていたのでは、自分達が十分な評価を受ける為の「売上」も「仕入(発注)」も出来ない事に気付かざるを得なかったのです。販売見込み量を予想する能力についても、徐々にではありますが、向上していきました。

勿論、これは、当初から狙っていた通りのシナリオです。そして、本当に危機的な状況には陥らないように、様々なフォローを経営者側から継続的に行っていました。

こうした変革によって、この会社の「販売部と商品部の関係」は、「顧客と仕入先の関係」に近いものになっていきました。一時の混乱を覚悟して変革を実現させた事で、この会社は強い組織を手に入れる事が出来たと言えるでしょう。

当社から見た解説

今回の事例のような、「会社に長く根付いた風土(文化)」とでも言えるようなものが原因となって発生している問題は、多くの会社に存在します。そして、それを改善する事は非常に困難である事が通常です。

こうした問題は、「組織の長年の姿」や「業務の進め方」といった要素と繋がっている事が多く、表面的に問題点を解決しようとしても、多くの場合、失敗します。対策を安易に講じても、何も変わらなかったり、下手をすると、会社を潰すような混乱が起きたりします。

今回の会社のケースでも、発生していた問題は、「過大発注が日常化している」という決して珍しいものではありませんでした。しかし、経営者が様々な施策を講じても、全く結果は出ていませんでした。

これは、問題が「各部門が活動の前提としている価値観(存在意義)」といった所から来ている以上、その部分を触らない事には現状は変化しなかった為です。しかし、その為の対策は、まさしく「劇薬」であり、副作用を覚悟する必要がありました。

この為、「社内の混乱」や「当面の業績悪化」を経営者には事前に覚悟して頂いています。しかし、自社だけで検討を進めた場合、このような覚悟が出来ず、問題への対応を先送りしてしまう会社が多いのではないでしょうか。

今回のケースでは、外部から意思決定をサポートさせて頂く事で、意思決定から逃げずに対応を進める事が出来ました。問題への対応を先送りした場合のデメリットについて外部から指摘させて頂いた事も、経営者の決断には役立った事でしょう。

そして、実行にあたっては、副作用を最小限に抑える為、かなり綿密で大規模な対策を準備しています。大きなものとしては、人事評価に関する改革すら、今回の対策の為には実行しています。

こうした事前準備と実行中の細かいフォローによって、この会社では、混乱中にも人が辞めず、また、社員の意識を適切に保ち続ける事に成功したのです。

こうした事を全て行う事で、今回のケースでは、組織に根付く問題が解決に向けて大きく動き始めました。しかし、対策を自社のみで行おうとした場合、こうした対策についても過小になりがちであり、せっかく問題への対応を決めた場合でも、問題解決に失敗してしまう会社が少なくないように思います。

多くの会社は、「解決したいが、解決出来ない」問題を抱えています。こうした「先送りしている問題」の多くは、確かに取り組みの難易度が高いものです。しかし、今回のケースのように、適切に準備・対応を行えば、解決させる事は不可能ではありません。

自社だけで解決させる事が難しい場合には、適切なサポートを外部から受ける事も検討して頂き、手遅れにならないうちに、解決に向けて歩み出して頂きたいと思います。