事例「不動産売却を事業拡大に活用したい」
(固定資産の売却スキーム)

必要資金の為に収益不動産を売却したい。しかし、この資金調達計画には大きなリスクが隠れていた。判明したリスクの内容と、そのリスクを顕在化させない為に提案された仕組み(スキーム)とは。

この記事では、経営支援の事例を取り上げ、経営や事業運営に関して問題を抱えた状態をどのように変化させる事が可能なのかについて紹介します。事業に携わる方で、問題が解決した先が見えずに悩まれている方に参考にして頂ければ幸いです。

支援前の状態

  • 他社の買収の為に資金が必要であり、不動産を売却する事を検討している。
  • この不動産による家賃収入は貴重である。しかし、今回の案件の為には手放しても構わないと経営者は考えている。
  • ただし、経営者はこうした案件に不慣れであり、調達した資金を使って本当に買収を成功させられるのか不安に思っている。
  • 事業内容は、情報システムに関する製品の開発・販売および保守。

支援内容と支援後の状態

この会社は、随分前にはなりますが、大きな売上を計上していた時期があり、今回、経営者が売却を検討している不動産(オフィスビル)は、その時代に購入したものでした。このビルは自社では利用しておらず、賃料収入の為に他社に貸している物件(収益不動産)でした。

この会社の本業の収入は、過去から続く保守契約に依存していました。近年の利益水準は極めて低い水準であり、売却を検討している収益不動産から得られる家賃収入は、この会社の業績を大きく支えていました。

このような本業不振の状況が続く中、経営者は、偶然、買収したい会社の関係者と知り合ったのです。経営者にとって、この相手が持つ技術は非常に魅力的なものであり、「その技術を手に入れる事が出来れば、本業の売上を大幅に伸ばす事が出来る」と確信出来るものでした。

そこで、経営者は、買収に必要な資金を外部から調達しようと動き出しました。しかし、残念ながら、その試みは成功しませんでした。買収リスクが大きすぎると判断され、資金を融通してくれる所が無かったのです。

結果、経営者は自力で資金調達を行う事にしました。それが、今回検討している収益不動産の売却だったのです。幸い、この不動産の売却によって、買収先に支払う金額を準備する事は出来そうでした。

しかし、買収に不慣れな経営者には、不安が残っていました。買収先が持つ技術を自社に取り込み終わるまでの流れがイメージ出来ず、「調達出来た金額で、本当に買収を完了させる事が出来るのか」という点について確信が持てなかったのです。

この為、経営者の不安に応えるべく、まず、買収に関する具体的な計画を詰める事にしました。

作業の結果、経営者の懸念は杞憂である事が解りました。買収後に必要となる当面の資金の事までを考慮に入れても、調達予定額は十分な金額である事が確認出来たのです。

しかし、買収後の運営についてシミュレーションを行う中で、別の問題が見つかりました。それは、買収をこのまま進めた場合、「本業の継続が危うくなる危険性がある」という事でした。

実は、買収先の事業はかなりの赤字でした。そして、買収先の技術が自社の収益に貢献するようになるまでには、数年の時間が必要であると予測されたのです。

これは、買収後、この会社の業績や財務状態が急激に悪化する事を意味していました。そして、この会社は、長期的な保守を行う事業の性質上、財務状態が大幅に悪化した場合、一部の優良顧客との契約を失う危険性があったのです。

経営者も、この予測には青ざめる事になりました。本業が続けられなくなっては、買収先の技術を活かして事業を拡大する前に、自社が潰れてしまいます。

この段階で単純に買収を諦める道もあったでしょう。しかし、今回は、経営者の買収にかける強い期待を受け、買収を実現させる為の検討を続けました。そして、検討の結果、一つの提案を行う事になります。

それは、「収益不動産を売却」する代わりに、「本社ビルを売却」するというものです。

この会社は、本社ビルも保有していました。しかし、これを売却した場合、他に事務所を借りる事になり、新たな経費が発生してしまいます。また、本業のサービス提供に必要な大型設備が置かれていた事もあり、本社の売却については全く検討されていませんでした。

しかし、検討を続けた結果、「本社ビルを売却した後も、数年間は今まで通り使い続ける事が出来る」という仕組みを作る事が出来ました。また、本社ビルの売却益を使って、今後数年間の業績を下支えするという計画もまとめ上げる事が出来ました。

少し専門的な計画ですが、これにより、問題となっていた「業績への悪影響」や「財務状態の悪化」を発生させずに、買収を進める事が出来るようになった訳です。

勿論、この計画にはリスクがあります。数年の間に、買収した会社の技術を用いて業績を向上させる事が出来なければ、数年後には本社ビルも使えなくなり、業績も大幅に悪化します。この場合、会社は存続すら危うくなるでしょう。

この提案(計画)は少し複雑であり、経営者にとって、簡単には理解できないものであったようです。しかし、丁寧な説明を繰り返し行った結果、最終的には、リスクも十分に理解された上で、この提案は実行に移される事になります。

こうして、この会社は経営者が求めていた買収を実現させる事に成功します。そして、数年後、この会社の事業は、経営者の期待通り、急成長を遂げる事になります。

この会社は、不動産の売却という要素をうまく活用する事で、経営者が描いた「事業拡大への道」を実現させる事に成功したのです。

当社から見た解説

不動産の売買は、一度の取引が経営に大きな影響を及ぼす事が少なくありません。この為、実行にあたっては、十分な準備を行う必要があります。そして、その準備が適切では無かった場合、本業の危機に繋がる事すらあり得ます。

今回の会社のケースでも、当初の計画通りに不動産の売却を進めていた場合、会社の存続は危うくなっていた事でしょう。

幸い、今回は、外部からのアドバイスを受ける機会に恵まれた為、リスクが顕在化する事はありませんでした。しかし、この会社は、自社だけでは、そのリスクについて気付く事が出来なかったです。

これは、この会社が、「不動産の売却が本業に与えるリスク(問題点)」を適切に分析する能力を持ち合わせていなかった事が原因でした。また、今回のケースでは、そのような作業が必要であるという認識自体が欠けていました。

しかし、このようなケースは珍しいものではありません。多くの会社にとって、「不動産の売買」というイベントは、それほど頻繁に発生するものではありません。この為、十分な知識や経験が蓄積されていない会社は多いのです。

実は、不動産の売買自体は、専門の会社に頼めば簡単に実現が可能です。

しかし、不動産の売買を行う際には、「単純な資産の売買」と軽く見る事なく、「不動産の売買が経営に与える影響」という視点での分析が必要である事を忘れないようにして下さい。それが、不動産の売買に関するリスクを避ける為の一歩となります。

また、不動産の売買は、本業の難題を解決させる為に活用出来る事もあります。

今回の会社のケースでも、少し複雑な計画(スキーム)を組む必要はありましたが、「不動産の売却」は、事業を再成長させる上で大きな役割を果たしました。

適切な検討を行う事が出来れば、単にリスクを回避するだけではなく、こうした前向きな計画を立案する事も可能なのです。ただし、こうした検討作業を行う為には、不動産に関する専門知識だけでは不十分であり、より経営に近い視点で検討を行う能力が求められます。

不動産の売買を行う際には、適切に検討が出来る体制を構築した上で、必要に応じ、「リスクを避ける為」と「前向きな活用の為」の両方について、検討を行うようにして下さい。