中小企業向け経営のヒント

会社を潰さない為の理解(後編)~現金が支払えないと何が起きるか~

現金が支払えない状態に陥った会社には、どのような未来が待っているのでしょうか。それを深く理解する事を通じて、会社を潰さない為に日頃から意識しておくべき事を再確認して下さい。

この記事の前編において、
・「現金を支払ってもらう約束を破られた相手」こそが、自社を潰す事が出来る
という内容について紹介させて頂きました。

そして、自社を潰さない為には、「現金を支払ってもらう約束を破られた相手」を創り出さない事が大事であり、それを日頃から意識すべきである事を紹介させて頂きました。

この後編では、「自社が潰れる」という事態が発生する過程をイメージして頂く事で、この点について、より深く理解して頂きたいと思います。

現金が支払えない状態を相手の立場から理解する

では、「現金を支払ってもらう約束を破られた相手」が、「どのようにして自社を潰す事が出来るのか」という点について見ていきましょう。

その為には、自分が逆の立場になった時の事を想像して頂くとイメージがしやすいと思います。例えば、貴方が商品を売った相手から、支払期日になっても代金が支払われていないとしましょう(例をシンプルにする為、現金決済だったとします)。

貴方は、どうしますか?

勿論、催促や交渉といった段階はあるでしょう。しかし、最終的には、何としてでも代金を回収しようとしますよね。

なお、相手が支払ってこないのは、(嫌がらせなどではなく)本当に相手に支払う余裕がないものとします。そして、相手がこのまま変わらず営業を続けても、支払われる可能性はないものとしましょう。

現金が支払えない相手に何が出来るのか

そういった状況で、相手が、
「支払える現金がない」
と言ってきたり、
「営業を続ける為には、他の仕入先や従業員などに優先的に支払わないといけないので、貴方には支払えない」
などと言ってきたりしても、それで納得して諦める事はないですよね。

その言い分を聞いていたら、こちらが損する事になって困ってしまいます。通常、何としてでも、相手から代金を回収しようとすると思います。

細かい取り立ての手順などは本題から外れますので省略しますが、法律も、その為の行動を支えてくれます。例えば、相手が持っている資産を処分したり、相手が他の所に支払う予定だったお金をこちらへの支払いに充当したり、という事が可能です。

現金が支払えないとどうなるのか

そして、貴方がこうした行為を行って現金回収を行うと、最終的に、相手は営業が続けられなくなるのです。

仮に、貴方には代金を支払う事が出来たとしても、その支払いの為に、貴方以外の他の相手に支払う現金がなくなるかもしれません。従業員への給与支払も出来なくなるかもしれません。また、最終的には、支払いをする為に、営業を続ける為に必要な資産がなくなるでしょう(その資産を支払に充当するしかなくなる為)。

結果、営業が続けられなくなるのは理解して頂けると思います。そして、相手の会社は潰れる事になります。これが、「会社が潰れる」という事です。

現実には、強制的な取り立てが行われる手前で、「もう、この会社からは今後の支払が期待出来ない」と判断され、取引先から取引を停止されたりする事態も発生します。そして、その結果、営業が続けられなくなっていくケースも少なくありません。また、自社でこうした事態を予測し、自ら営業を止める事もあるでしょう。

しかし、どちらにせよ、「現金が支払えない状態になるから潰れる」という基本的な点では違いはありません。

(ご参考)
お金を取り立てる側になった場合の為に補足しますが、こうした取り立て行為については、様々な制約の中で行う事になります。法律は確かに助けてはくれますが、実際に現金がどれだけ回収出来るかは、残念ながら別問題です。ご注意下さい。
また、この記事では、自社を潰せる相手を「現金を支払ってもらう約束を破られた相手」と説明しています。この説明は、厳密な定義ではありません。今回のテーマについて理解をして頂く上で最適と思われる表現を用いています。

現金が支払えないケース以外では会社は潰れない

先ほどのケースで、貴方がお金の取り立てに行った際、相手と少し揉めたとしても、相手は実は現金を持っており、貴方は代金を回収出来たとしましょう(回収額には、金利などが上乗せされているかもしれません)。

そうした場合、一旦、貴方は満足をしなければなりません。貴方は、その会社に対して、それ以上の事を強制する事は出来ません。すなわち、その会社を潰す事は出来ないのです。

ここで重要な事は、その際、相手が、
・どれほど売上に困っていようが、
・取引相手と揉めていようが
・経営課題に悩んでいようが、
関係ないという事です。

こうした事は、改めて説明を受けると、「当たり前」と感じられるかもしれません。しかし、問題は、「それを自社の事業運営に活かせているか」という事です。

(ご参考)
こうしたケースでは、勿論、貴方が、その会社との将来に向けた取引関係を見直す事は出来るでしょう。しかし、それは相手の会社を潰す事には繋がりません。相手の会社は、貴方の会社なしで生き残っていく道を探していく事が出来ます。
そして、貴方が相手の会社を潰せないのと同様に、支払を受けられている限り、他の取引相手も、その会社を潰す事は出来ません。その会社は、(全ての相手に対して支払を続ける事が出来る限り)存続していく事が出来るのです。

経営者が気を取られがちな間違った課題

経営者は、目先の難題に気を取られがちです。

「取引先から(金融機関から)、様々な要請を受けており、その要請を満たせなければ会社が潰れてしまう」といった内容のお話を伺う事があります。しかし、良くお話を聞いてみると、その要請されている内容が、現金とは直接関係しない事も良くあります。

具体的には、
・納品する商品に関するもの
・取引条件に関するもの
・業績に関するもの

など様々なものがあります。

勿論、そうした要請に応える事は、経営にとって大事な場合が多いでしょう。しかし、同時に、「その要請に、何のために応じるのか」という事は意識しておくべきです。

経営者が会社を潰さない為に意識すべき事

それは、その要請に応じないと、最終的には、「期待している現金が手に入らない(または、現金が出ていく)」からであるはずです。

日頃、経営者が意識している要素の多くは、最終的には、「現金の問題」という一つの要因の為に、「間接的に」意識している事なのです。この事を、改めて、ここで確認して頂きたいと思います。

相手からの要請に応えられなければ、相手からの信用や評価が変動する事はあるでしょうし、その結果、取引が減少したりすることもあり得るでしょう。しかし、それらも、最終的には、現金の為であるはずなのです。

現金が支払えないという事を意識する重要性

繰り返しにはなりますが、忘れてはいけないのは、貴方の会社に「必要な現金がある間」は、「会社は営業を続けていくことが出来る」という事です。特定の相手との商売が無くなっても、他の相手を探すことも出来ますし、取り扱う商品を切り替えることも出来ます。まだ、会社が潰れるとは決まらないのです。

しかし、目の前の課題を直接的に解決する以外に、もっと良い道があった場合であっても、そうした道を選べなかった会社が存在します。そうした会社においては、目の前の課題対策以外については思考が停止してしまうようです。そして、その結果、会社を潰さずに済む道があったとしても、その道を選べないケースすらあります。

経営に関するプレッシャーの中で、こうした事を意識する事の難しさは、私達も十分に理解しています。しかし、是非、目の前の課題に捕らわれすぎて、自社の経営判断から適切な選択肢を奪う(選択肢が見えなくなってしまう)事は避けて頂きたいと思います。

もし、こうした事を理解した上で、それでも、目先の課題対策以外には目を向けられなかったり、優先度で悩まれたりする場合には、信頼できる外部の専門家に相談される事をお勧めします。

この連載では、関連記事にて、こうした問題への対策についても紹介させて頂いております。宜しければ、それらの記事もご一読下さい。

なお、当社では、様々なビジネスコンサルティングに関するサービスの一環として、こうした「事業継続のリスクに関する分析や対策」についても支援させて頂いております。

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