事例「会社の将来について決断しないといけない」
(重大な経営判断)

業績低迷の会社を救う為に行う「重大な経営判断」には、経営者が一人では気付く事の出来なかったリスクが隠されていた。この会社がリスクを回避出来た理由と、その先に見つける事が出来た「会社の可能性」とは。

この記事では、経営支援の事例を取り上げ、経営や事業運営に関して問題を抱えた状態をどのように変化させる事が可能なのかについて紹介します。事業に携わる方で、問題が解決した先が見えずに悩まれている方に参考にして頂ければ幸いです。

支援前の状態

  • 過大な借入があり、昨今の業績低迷で資金繰りが悪化している。このままでは、近い将来、返済に行き詰まる可能性が高いと経営者は考えている。
  • このような状況の中で、長年の仕入先から買収を提案されている。仕入先からは、より最終製品に近い分野に進出する為の買収(川下への事業拡大)である、と説明されている。
  • 買収を受けた場合、経営者は退任しなければならない。しかし、他の社員の雇用は守られると説明を受けている。
  • 経営者としては、買収を受け入れる決定を近々行う予定である。ただし、自分の退任後に、業務が滞る事を心配している。
  • 事業内容は、機械製品の資材に関する製造・卸。

支援内容と支援後の状態

この会社の経営者は、今回の買収提案を歓迎していました。

自社よりも規模の大きな仕入先に救済して貰う事で、自社の事業を今まで以上に安定的に続ける事が出来るようになる、と考えていたのです。また、社員思いの経営者にとって、社員の雇用が守られるという点も大きかったようです。

買収提案を受け入れた場合、経営者は引退する事になります。しかし、経営者にとっては、先代から引き継いだ事業を、このまま残せる事が大事でした。既に引退してもおかしくない年齢になっていた自分の退任は大きな問題では無い、と考えていたのです。

この為、経営者の心配は、自分が退任した後に、今と同じように業務を行っていけるのか(混乱しないか)という点だけであり、この点について対応を検討する事になりました。

分析を始めた所、殆どの業務の判断おいて、経営者が関わっている事が解りました。この為、経営者の懸念は良く理解出来ました。

しかし、各業務の流れを整理して再設計した所、多少、効率は落ちるものの、集団で判断する体制に切り替えていく事で、今後も問題無く事業を行う事が出来る体制を準備する事は出来ました。

ただし、業務に関する見直し作業を行う中で、気になる事があり、経営者に懸念をお伝えする事にしました。

それは、「今の経営者と共に仕事をしたい」という強い希望を持った社員が多い為、「経営者の退任後に社員が会社に残るかどうかは解らない(結果、現状の事業は維持出来なくなるかもしれない)」という懸念でした。

この指摘に、経営者は非常に驚かれました。自分が退任する事で、事業と社員を残そうとされていた訳ですから、驚かれるのも無理はありませんでした。

なお、この指摘は、業務の見直し作業に関して行った社員の皆様とのコミュニケーションの中で感じた事でしたが、社内の事について冷静に分析する機会のない経営者の立場では、思いもよらない問題点であったようでした。

そこで、この懸念が現実のものとなる可能性を確かめる為、数人の社員を呼び、経営者自身がご自身の引退についてほのめかして、相談をされました。買収については、社内には内緒にされていましたので、あくまで、年令を理由とする引退、という説明です。

結果は、懸念通りであり、経営者が退任した場合、退職者の発生は避けられない事が確認されました。経営者なくしては今の事業を続けていけない(いきたくない)と考えている社員が多かったのです。そして、社員の意識を急に変える事は難しいようでした。

そこで、買収の提案者(仕入先)に、買収後も経営者が残れるように交渉を試みました。しかし、この点について、先方が譲歩する事はありませんでした。

この為、改めて、「買収を受けるのか、それとも断るのか」という事について検討が行われる事になりました。

また、同時に、買収の提案者の意図についても分析を始める事にしました。長い付き合いのある仕入先であれば、経営者が退任する事によるリスクを理解しているはずであり、経営者の退任を条件としている事に違和感があった為です。

分析を進めた結果、仕入先が今回の買収によって得たいと考えていたものは、この会社が持つ「顧客との関係」だけである事が解りました。この会社の事業そのものには関心が無かったのです。

顧客との関係は、先代の経営者が長い時間をかけて築き上げてきたものであり、確かに、この会社の営業の基盤となっていました。しかし、この会社で働く社員にとっては、「当たり前のもの」であり、その価値を改めて認識する事はありませんでした。

この為、経営者も、「今回の買収の目的は自分達の事業(製品に関する企画や製造能力を含む)である」と思い込んでしまっていたのです。

そして、判明した事実を基に分析すると、顧客との関係を担当する社員については、買収後も重宝される可能性が高いものの、それ以外の社員については、買収後は冷遇される可能性が高い事が予測されました。

その後も検討を続け、最終的に、経営者が出した答えは、「買収を断る」というものでした。経営者にとって、「今の事業」も「今の社員」も大事にして貰えないのであれば、買収に応じる事は出来なかったのです。

こうして、「買収によって救済される」という道は閉ざされる事になります。しかし、今回の検討を通じて、この会社は、「顧客との関係」という「自社の持つ強み」に気付く事が出来ました。そして、この強みを活かした新しい成長プラン(事業戦略)を描く事になりました。

楽観は出来ませんが、自社の方向性が描けた事で、この会社は、残したかった事業を残しつつ、様々なかたちで収益を獲得出来る会社に成長していく事でしょう。そして、その中で、今の経営者の円満な引退も実現する事と思います。

当社から見た解説

経営に関する重大な決断をしなければならない時、そこには、様々な専門的な能力が求められます。今回の案件でも、様々な調査や数字面での分析が必要とされていました。

しかし、今回のケースにおける一番のポイントは、そういった専門的な能力に関する部分ではなく、「この会社の経営者が、外部の視点で、かつ、自分と全く同じ立場で、考えてくれる(相談出来る)相手を得る事が出来た」という点についてです。

経営者は、時に孤独な立場で決断をする事を求められます。しかし、どれだけ素晴らしい経営者であっても、一人で行う検討には限界があります。「視野が狭くなる」「思い込みによって判断を誤る」「何か重大な事を見落としたりする」といった問題からは避けられません。

そして、「自社の事について冷静な分析をする事は難しい」という問題もあります。どれほど自分が冷静になっているつもりでも、日頃から関わっている(責任を負っている)会社や事業については、思考が受ける様々なバイアス(偏り)を無くす事が出来ません。

この為、経営者が大きな案件について判断する際に、「適切な相談相手がいる」という事は、極めて大きな意味を持ちます。

そして、その相手は、「自分と利害が反しない確証が持てる相手である」「自分と同じ立場(視点)で考えてくれる相手である」「冷静な視点(第三者的な立場)で判断(分析)する事が可能な相手である」といった条件を満たしているべきです。

今回の会社のケースでも、もし、経営者自身のみで検討を進め、判断をしていた場合、様々なリスクについては気付けず、恐らく、経営者が望んだ結末にはならなかった事でしょう。

難しい経営判断をしなければならない時には、まず、条件を満たした「適切な相談相手」を準備される事をお勧めします。どれだけ差し迫った状況に感じられたとしても、それをするのに遅すぎるという事は無いはずです。