事例「売上が回復しない理由が解らない」
(問題解決の為の過去分析)

売上が低迷し、回復する兆しが見えない顧客の存在。「過去分析」によって判明した、解決すべき「原因」とは。そして、その問題点を自社の分析では見つける事が出来なかった理由とは。

この記事では、経営支援の事例を取り上げ、経営や事業運営に関して問題を抱えた状態をどのように変化させる事が可能なのかについて紹介します。事業に携わる方で、問題が解決した先が見えずに悩まれている方に参考にして頂ければ幸いです。

支援前の状態

  • 特定の顧客に対する売上が数年前から低迷している。分析や対策は行っているが、以前の売上水準には戻せていない。
  • 経営者としては、この顧客に対する売上を何としてでも以前の水準に戻したいと考えている。しかし、有効な対策が見つけられずに現在に至る。
  • 事業内容は、専門商社。

支援内容と支援後の状態

この会社は多くの顧客と取引をしていましたが、大きな取引が出来る相手(大口顧客)は数社に限られていました。そして、今回、問題となっている顧客は、その中の一社でした。

この顧客との関係を確認した所、数年前に、それまでの数分の一の水準にまで売上が減少し、その状態が現在まで続いていました。なお、類似の商売を行っている他の顧客との間には、このような事態は発生していませんでした。

状況からは、この顧客との関係が急激に悪化したと考えるのが妥当でした。しかし、少なくとも表面上は、この顧客との関係は悪化していませんでした。以前と同じように定期的な商談も行われ、一定の受注は継続していました。

原因についての分析も行いましたが、この顧客向けの売上を回復させる事は非常に難しいという結論が出ました。自社の側に解決すべき問題点が全く見つからなかったのです。また、特定の同業他社に商売を奪われている訳でもありませんでした。

この分析結果を受けて、他の方法で売上アップを目指す事を提案はさせて頂きました。しかし、経営者としては、この顧客との取引を回復させたいという強い希望をお持ちでした。

そこで、本腰を入れて、「この顧客に対する売上が低迷している理由」について調査を行う事にしました。解決の手がかりを掴むため、改めて、顧客からの聞き取り調査や社内調査なども行いましたが、予想通り、調査は難航しました。どれだけ調べても、売上の減少幅に見合うような大きな理由は見つからなかったのです。

しかし、粘り強く、この顧客との関係に関わる要素を洗い出し、時系列で分析した結果、時間はかかりましたが、一つの可能性(仮説)に辿り着く事が出来ました。

それは、この顧客との売上が低迷するようになる少し前に、海外の管理部門に異動となった、自社の「一人の社員の存在」でした。

この社員は、長年、この顧客を担当していましたが、入社時から内気な性格で知られており、営業向きではありませんでした。会社からの評価も決して高いとは言えず、今回の分析においても、会社側では誰も重要視していなかった社員でした。

また、この顧客を含む大口顧客に対しては、この会社はチームを組んで対応しており、この社員が異動になった時も、残りのチームメンバーに変更はありませんでした。この為、この社員の異動が売上に与える影響があるとは誰も考えていませんでした。

しかし、時系列で分析を続けた所、確かに、この社員が担当を外れた後の商談から、成約率や受注規模が低下している事が確認出来ました。勿論、偶然である可能性もあります。しかし、他に有力な手がかりが無かった事もあり、この可能性について確認を続ける事にしました。

そして、更に時間はかかりましたが、「この一人の社員の異動が売上低迷の原因である」という仮説は、正しかった事が判明したのです。

きっかけは、その社員とプライベートで仲の良かった社員に行ったヒアリングの結果でした。そして、その結果を基に、顧客の担当者に確認した所、非公式にではありますが、「その社員の存在が、異動までの高水準の取引関係を支えていた」という事を認めて頂く事が出来たのでした。

実は、この異動となった社員は、顧客の担当者に対して、インドアな趣味を使って接待をしていました。そして、仕事の間柄を超えて仲良くなる事に成功していたのです。しかし、それは休日のみの関係であり、会社に報告する事はありませんでした。この為、社内では殆ど誰も知らなかったのです。

また、この社員は、品質管理について高い専門性を持っており、納品に関する問題を減らす事に貢献していました。こうした点は評価され辛い所ではありますが、差を付ける事が難しい競合他社との受注競争において、自社が選ばれる大きな要因となっていたのでした。

しかし、この社員は、実際の商談の場では活躍出来ませんでした。また、自社の他の社員との人間関係もうまくいっていませんでした。この為、顧客と問題が起きると、他のチームメンバーから責任をいつも押しつけられていました。

このような事情から、この社員のお陰で売上が取れているとは、社内では誰も思っていなかったのです。

では、何故、顧客の側から、この社員を賞賛したり、担当に戻すように求めたりする声が一切出なかったのでしょうか。それは、この社員が行っていた接待のせいでした。

実は、この顧客の会社は、自社の社員が接待を受ける事を歓迎していませんでした。この為、この担当者は、接待を受けていた事実が明るみに出る事、そして、接待によって取引先を決めていたと疑われる事を恐れ、この社員の話題を避けていたのでした。

こうして、時間と手間はかかりましたが、取引が数年前から減少した原因を判明させる事が出来ました。

対策については、様々な検討を行いましたが、結局、この社員を顧客の担当に戻す事になりました。この社員以外に、顧客を満足させられる対応は出来そうになかったのです。

ただし、一計を案じ、この顧客を担当するチームメンバーは総入れ替えする事にしました。そして、新しいチームリーダーにのみ、今回の事情を伝える事にしました。これは、この社員の存在が目立つ事になれば、結局、接待の事が明らかになり、顧客の迷惑になる、と考えての判断でした。

この後、この顧客との取引水準は元に戻り始めました。事情を知らない周囲からみれば、一新されたチームの能力が優れていた為に、売上が急回復したように見える事でしょう。そして、それは狙い通りです。

こうして、この会社は売上が低迷していた理由を把握し、そして、それに対応する事によって、売上を回復させる事に成功したのでした。

当社から見た解説

「発生している問題の原因(理由)を突き止める事が出来ず、有効な(適切な)対応を取る事が出来ない」という状況が発生することがあります。

こうした状況の多くは、現状分析によって解決の糸口を見つける事が出来ます。しかし、残念ながら、現状分析をどれだけ行っても先に進めない事があります。

そうした場合に有効な手段の一つが、「過去についての分析」です。すなわち、「今、うまくいっていない理由」を分析するのではなく、「過去、何があったのか」という視点で行う分析です。

この分析手法は適切に活用する事が出来れば、大きな武器となります。しかし、過去について分析する事は、残された情報しか頼るものが無い事も多く、現状を分析する以上に難易度が高いケースが多いと言えます。

そして、分析で見つかる「問題の原因」は、自社にとって「思いもよらないもの」である事が少なくありません。また、「自社で行う調査では、原因を把握する事が出来ない事情」が隠れている場合も少なくありません。

これらの事情の存在は、「自社の問題は、自社自身で原因を見つける事が出来るはずだ」という思い込みが、時に問題解決を妨げる場合がある事を示しています。

今回の会社のケースでも、問題解決の鍵は「全く注目されていなかった一人の社員の存在」でした。しかし、この社員を評価していなかった社内での調査において、この社員の存在にたどり着く事は困難でした。

そして、評価しないどころか、この社員に対してトラブルの責任を押しつけていた他の社員に対する調査で、この社員の重要性について示唆がある事はあり得ませんでした。

解決の糸口が見えづらい問題と向き合う事になった場合には、「過去に目を向ける事で解決出来る事もある」という事、そして、「自社の調査だけでは発見出来ない事もある」という事を覚えておいて頂くと、難局を乗り越える助けとなる場合があるでしょう。